LINEde▲2億→12.5億

※サムネイルの写真と本文は、全く関係ありません。

200人ほどの医療系企業でIT責任者をやっていた時の噺。

いきなり社長とオーナーに呼ばれ「会社が10年連続で2億程度の赤字を垂れ流し続けている、立て直してくれ」と言われ執行役員となった。結果は、1年で12.5億の黒字。大成功である。

それより已己巳己も驚いたのが、開始当初怨嗟渦巻く現場社員(新卒社員が「社長を泣きながら殺したい」というレベル)たちが、1年後には手紙をしたため合い、それぞれがそれぞれに感謝の言葉を掛け合うようになったことだった。

その時、已己巳己がやったこと、それは10名ほどの中間管理職に対し、1年で1万5000通に及ぶLINEコメントを送り続けたことだった。

予備校講師時代から「人間は3ヶ月言い続ければ変わり始める、半年で変わり始める人間が3割超えると、残りも全部変わる」と信じていたので、それを社会人の群れでもやってみたのだが、高校生も社会人も全く同じで、ひたすらにLINEで声をかけ続けることで、管理職の意識が変わり、現場も活性化したのだ。

この噺は、まあいろんなところでしてるのだが、当時の会社の中核メンバーにこの時、裏でやってた他のことを伝え忘れていた。さすがにLINEだけではここまでの結果は出ていないし、黒字化に向けたデータ活用事例でもあるので、この際まとめておこうと思う。

当時のビジネスモデルを完結に話すと、数十万人の会員データベースから治験・臨床試験の案件に当てはまる条件の方を案内し参加いただくと、内容に応じて100万円から1万円程度の紹介手数料を成果課金でいただけるというものだった。

まずやったのは、住所に「東京」とある人を対象に「金が無い」と経営陣から嫌な顔をされながら、メールマガジンに加えてSMS配信を新たに取り入れた。これは、SMS広告配信業者も想定していない使い方だったのだが、SMSで配信するということはGPSで位置を特定して配信するはずで、そうなると「東京」と書いておきながら「東京にいない」会員が割り出せる(しかも送信できてない分は無料である)。実際送信してみると想定通り「配信不可能」が60%程度いた。この60%にあたる人は「実際には東京にいない」わけで、東京都内の案件を紹介しても「実際に行けない」可能性が高いのだ。

さらに、治験や臨床試験の場合、疾患や服薬データの自己申告もあるのだが、このデータ、嘘だとは思わないが鮮度がわからない。「書いてないけど今は病気」「昔は薬を飲んでいたけど今は飲んでない」ということもあるだろうと思い、紹介する対象者群を5つくらいのコホートにわけ、条件別にアプローチをさせてみた。すると、登録されている疾患や服薬データなどのデータ項目よりも圧倒的に(有意差で3倍程度)「この治験に参加したい」という希望を先に押さえ、その上で最新の属性を聞いたほうが、有意差3倍、つまり成果に至る率が3倍跳ね上がったのだ。考えてみれば、案件タイトルと詳細を読めば大体の中身はわかるわけで「応募してきたけども対象疾患ではない」ことなど、まずありえないのだ(現地で検査もされるし嘘をつく意味が無い)。

これらのデータを1ヶ月くらいで整え、鮮度の高いリストを作成しメールとコールセンターで順番にかけさせるようにした。それまでは、コールセンターのパート・アルバイトや新卒社員がリストを作ったり、リストの中から選別して1時間に 5本以下という発信数が、20本以上(約4倍)に増え上記で質を上げ、こちらで量を稼げたので、ざっとの感覚であるが最初の1ヶ月間で前年の64倍(3の6乗)ほど獲得効率を上げられた。

しかし、紹介が増えても3ヶ月経っても売上が全く上がらない。そこでさらにデータを追っていくと、なんと殆どの会員が案件参加「待機」状態となっている。どうやら、参加希望の会員を、各案件先である病院の担当者が意図的に抱え込み(抱え込むだけだと費用が発生しない)、必要最低限の人数をチョロチョロ確定させていくという姑息な対応をしていることがわかった。これは、参加者にとってとても不利益になる。参加枠が無いなら、他の病院を案内することもできるからだ。そのため、営業・現場が日々先方に連絡を入れ、2週間程度で「待機」の場合「解除」となるシステムを導入した。例えば150人待機していたような案件もあったが、1ヶ月程度の取組でほぼ0にすることができ、売上が跳ね上がり始めた。

ただ、どうしても長い間案内している案件は、利用者側からしても新鮮味が無く、日々申し込みが増えなくなる。そうすると、「コールセンタースタッフ1名が1日かかりきりで1紹介だけ」などという案件も数が重なると結構な割合となっていた。これを4ヶ月目あたりから全案件データ化してみると、面白いことに全案件で紹介曲線が一気にストンと落ちる時期ある。ストンと落ちた後は、何をしても紹介できないわけでこちらは獲得効率が下がる。そのため、全案件始まる前に「損切り条件稟議」を添えさせることにした。ストンと落ちた時は「損切り」として、残りの枠を全部埋めた時の売上から赤字にならないレベルの費用を全額外部広告に投じるのだ。内部で集まらないわけだから、外部で集めたほうが早い。1紹介100万で残り枠10。でストンと落ちた場合、1000万分を広告費として使いさっさと終わらせなさい、ということだ。

これは、相当な額になるので経営からは更に相当文句を言われたが、意を返さず数千万単位の稟議をどんどん承認していく。役員就任から半年ほどで、ストンと落ちたところから最大でも2週間もあればその案件を終わらせることができるようになった。それまでは、ただダラダラと数カ月は募集活動を続けていたから、これもうる覚えではあるが、1ヶ月で30人月くらいのコールスタッフ人件費を有益な案件に回せるようになった(しかもダラダラ続く案件はコールセンタースタッフのやる気も削ぐので経費削減だけでない価値があると思う)。

ちょうど、そんな半年が過ぎたころに、1紹介300万円という超難&大規模案件を受注した。1万円から100万円くらいまでの成果案件、その平均をとれば30万円程度だったので、1紹介のパンチ力が違う。そこで、その案件を99%のコール席に回し、その他の案件は全てWEBのみで完結させるシフトとした。WEB紹介チームはその代わり、赤字にならなければいくらでも広告諸経費を許可した。ほぼ全パワーを300万案件に集中させたのだ。なので、逆をいえば、一切社内リソースを使わずにWEBだけの募集チームが潰れ役となって回してくれたからこそのシフトなのである。すると、どんどん紹介が進み、大幅な黒字達成となったのだ。この案件のクライアントは世界でも有数の製薬会社だが紹介のレベルが想定を超えすぎていて(世界最低レベルから一気に世界2位まで上り詰める進捗となったらしい)上層部が勢揃いして「5億円値引いてくれ」と懇願されてしまうレベルだった。

なので、12.5億の黒字から、5億円の値引きを行い最終部門利益で7.5億を確保。会社は無事に存続が決まった。

「大型案件が来たから救われた」と考えている社員も多かったろうが、その前半年間の下準備がなければ、間違いなくこの案件は大失敗していたと今でも思う。

特殊な業界の事例ではあるが、データの見方や使い方などは他の業種でも同じような視座が必要なのではなかろうか。なにかの参考になればと書き留めておくので、特に前職関係者は参考にしてみてほしい。

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