観光のDX

※サムネイルの写真と本文は、全く関係ありません。

観光関連の取組は、ほぼ全自治体が興味をお持ちの要素である。

多くの地域で考える施策としては、観光データダッシュボードの作成のようである。

観光の様々な状況を可視化する。それ自体は悪くないと思うのだが、そもそものデータセットが已己巳己として疑問が残る。観光データダッシュボードで取り込まれるデータの多くは、観光系で提出される月単位の統計データだったりすることが多く、前月の状況がわかったところで、翌月に向けた対策につなげるのは、四季があり気候が動的に変化する日本の場合非常に難しい。桜の咲く4月の観光データは、よくて来年の4月に向けて活用できるデータだと認識して利用しているのであれば別だが。

特に気になるのは「観光協会などのWEBサイト閲覧データ」は、観光の実体ではなく、そのサイトの実体であるという点だ。例えば、埼玉の観光データダッシュボードを見ると「吉見百穴(岩壁に穴が無数に空いている古墳時代のお墓跡)」がほぼ全世代で大人気となっている。データダッシュボードのメニューには「サイトパフォーマンス」と書いてあるのだが、一般的な観光事業者が見れば「おお!これからの時代は穴が受けるのか!」となりかねない。しかし、これは他のパワーが強い観光サイトが、人気のある名所を競って上位表示させているので、力のない観光協会のサイトが弱くて勝ててない、ようやく、吉見百穴くらい人気の無い観光資源だと上位に表示されて少し見られているというだけの話である。吉見百穴など、埼玉県の小学生はほぼ全て遠足などに行くが、観光資源で最上位なわけがない(小江戸川越・長瀞川下りなど人気スポットはいっぱいある)のだ。

観光データのダッシュボードをやるのであれば、数分前のデータをまとめて「このあと30人くらいこの道を歩いてきますよ!」と地場の観光事業者に伝えたり、その30人に「この先に銘菓がありますよ!」と伝えるくらい即時性がなければ意味がないのではと思うのだが、それに足るデータを集めるのは中々難しく現実的ではない。

そんな背景もあるので、東大大澤研との研究の中にからめて、趣味の世界で「移動速度と観光視点の相関」を出してみた。すると「観光客の移動速度が遅ければ遅いほど、観光資源に対する期待値が下がる」という結果が見えてきた(そのための実証ではないので仮説ではあるが)。車で移動している観光客は、視点が大味になるので、大型の観光資源を大型の看板などでドン!とPRしないと目に入らない。しかし、歩いている観光客は、道端の石碑、崩壊した家、レトロな看板など、自ら探し求める視点に変わるのだ。最近の自転車やキックボードも速度があるので、歩行者レベルまでしきい値が下がらない。できれば時速数キロの歩行・EV運転の車椅子のようなスロービークルなどがいいだろう。それで移動してもらうだけで、崩壊した家まで観光資源になってしまうのだ。移動速度が遅くなれば、地場商店などとのタッチングポイントや滞在時間も増える。自らの足で歩いて見つけた町中華のほうが、有名ブランドのおしゃれなカフェよりよっぽどワクワクする。

観光客に「GPS付きのイイネボタン」を渡すだけ。というのも効果的だと思う。町中でイイネ、だけがプロットされていく。何がイイのかはわからない。ただ、イイネだけが積層する。たとえば、海沿いのロードサイドにポツンとある自販機にやたらイイネが溜まっている。それらを地場事業者や住民などが見合い「なぜイイのか、考える」というアプローチである。「周辺にまったく自販機が無くサイクリストやバイカーからすればオアシスのような存在なのかもしれないね。」そういったことを「地場が考える」トリガーだけを提供するのだ。そうすると、その視点がアンテナとなって生えてくる。参加者はその後、どこを歩いていても自販機やコンビニなどオアシスとなる要素があるかどうか、気にするようになるし、押された季節と時間も取得できているからそれらのタイミングに合わせ、オアシスを作るという新しい商売が出てくるかもしれない。

2つほど、データを活用した観光活性化の案を出してみた。

「観光とは、旅マエの探索でアプローチし、旅ナカでポイントなどを活用し行動変容を促し、旅アトで体験をSNSで拡散しやすくなる素材を提供する」などというのは、正しいのかもしれないが、地場でやるのは相当大変なことだ。それであれば、ちょっとしたところでも良いから「実際の観光地に変化が起きる」ために、データが活用できたほうが現実的だし、やってみれるものだし、続けられるものなのだと思う。DXは一過性のものではない。トランスフォームし続けられるレベル感であることこそが重要なのである。

観光DXは「観光資源を増やすこと」から「観光視点を増やすこと」への転換を可能にするのが最大のメリットなのだと思う。

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