情報銀行はなぜ失敗したのか

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総務省の委託事業に2年連続で採択され、責任者として情報銀行制度のあり方を模索した。

テーマは2年間共に、スマートシティとの関係性における活用可能性のシナリオ作成、システム開発、被験者による実証実験、有識者による意見聴取とその集約。国のプロジェクトに責任者として関わる初めての経験だった。

そもそも、情報銀行をご存じない方も多いかと思うので簡単に説明すると、GAFAを中心にデジタル系事業者は、本業で稼いで、本業で集めたデータで更に稼ぐ。例えば、Amazon。私たちの購入という活動に加え、その活動ログをマーケティングデータとして販売している。これは、EUにおけるGDPR思想から考えれば、私たちの活動ログの主権は私たち個人にあるわけで、何を勝手にそのデータで稼いでるのかという話になる。

しかし、自身のパーソナルデータの活用時におけるデータ主権とそのパーソナルデータによる収益の一部を受け取る権利の主張などを、個々人がAmazonなどのデジタル系企業に行うことは現実的ではないため、それらの役割を担うために制度化されたのが「情報銀行」である。

信託銀行は、自分の資産を預けると、代理で資産を活用した投資行為などを行い、含み益を自分に返してくれる。情報銀行は、自分のパーソナルデータを預けると、代理でパーソナルデータを活用した取組にそれを提供し、便益を自分に返してくれる。自分の資産を預けるか、自分のパーソナルデータを預けるか、だけの違いである。

これだけ聞けば、パーソナルデータは無尽蔵に産まれるわけで、個人視点で考えれば、うまく活用してもらい何かしらの便益をいただけるなら、盛り上がりそうなものなのだが、最早風前の灯火で、情報銀行として認定された現役サービスは1社しか残っていない。

デジタル推進が進むスマートシティであれば、その情報銀行が活用される可能性があるのではというのが総務省が行った実証調査のテーマである。

公開情報なので、本調査事業で已己巳己の仮説がいくつか高い評価を得た。

①自治体は縦割りで推進の熱量が拡がりづらいため、「教育・医療・観光」などスマートシティで大別される分野ではなく「平時と有事」と定義し「教育の有事時」「医療の有事時」「観光の有事時」などと「各分野のいざという時」という表と裏の「裏」から組み立てると、各原課は表が中心の活動が多いため「いざという時」データを如何に活用するか、という共通認識・共通理解を得やすい。

②パーソナルデータの活用においては、その対象となるフロント企業はセキュリティなど相当高いレベルを維持しているが、特に自治体の場合、フロント企業の先で実際に経済活動を担っている事業者はPマークすらも保持していない低レベルな主体が多く、ただそのような主体が関係してこなければ町を上げてのパーソナルデータ活用は推進できない。これを解決するためにはパーソナルデータの中でも「基本4情報」等個人を特定できる要素を全て排除してしまえば良い。「今4番テーブルに座った方々の中にはエビアレルギーの方がいる」ということだけがわかれば、地場サービサーは十分対応できるだろうという考え。これは実際に実証したが「これで十分」という声が多かった。

③個人ユーザーは、民間サービスにおいて、ほとんど規約を読んでおらず、パーソナルデータの第三者提供などが含まれていても、当該サービスを利用したければ使ってしまう。情報銀行の認定指針は安心・安全かもしれないが、それが逆に「わかりづらさ」を生み、「不安」を産み出す要因となる。情報銀行の認定指針を受けている事業者によるサービスなのであるから基盤はしっかりしているわけなので「始めることは超絶簡単にしてしまい、常にモニタリングした内容を利用者にフィードバックし、辞めることがいつでもすぐにできる」という指向性にする。具体的には「妥当性判断を利用者とデータ利活用事業者間でタグ化し選別する」「妥当性の範疇にある案件を全て一気に包括同意」「解除のタイミングをリッチに提供する」。これは、情報銀行が始まった頃に検討されていたことでもあったようで初心に帰るという意味で高い評価であった。

ただ、このあたりはHOWのレベルであれば成立しやすいという内容であって、ビジネス的なアプローチとしては劇弱い。

そもそも、パーソナルデータを事業者は利活用しきれていない。事業者が直接的に所有しているデータすら使えないのに、外部からパーソナルデータを収集したところで、利用価値が無い。そのため、今展開されている自治体系のパーソナルデータ利活用系サービスのほとんどは、ただ単に事業者がユーザーの青田刈りとして、体の良いキャンペーンのような立ち位置でしか使われていないのが現実だ。

で、このあたりはまたいつか詳細に話すが、パーソナルかどうか置いておいて、データ活用と話している界隈がほとんど理解していない重要な要素がある。これは臨床研究などに携わってきた已己巳己だから知っている話のようであるが、医療に関わらず知っておくべきことである。

それは、「データ活用」には「後ろ向き研究」「リアルタイム活用」「前向き研究」の3パタンあるということだ。システムや上がりでビジネスにもデータにも詳しくない連中は「リアルタイム活用」が6割。「後ろ向き」が4割といったところでしかアイデアを出せない。「リアルタイム活用」は主に、AとBの別サービスでシングルサインオンやデータを活用した広告表示・ポイント還元など。「後ろ向き」はほぼ全てがマーケティング。で、このレベルのことであれば、情報銀行やらパーソナルデータやらを深く持たなくても、今の時代できることがたくさんあるので、利用が進まないのだ。

パーソナルデータの利活用を本気で推進していくのであれば「前向き研究」が圧倒的に有利である。「前向き研究」の説明はググれば出てくるので詳細は省く。

細かいところで意見の相違はあるが、箕輪さんのこの指摘は間違いない未来の読みであって、そういう時代に「前向き研究」を基本としたパーソナルデータの連携・利活用はとても重要になってくるのだ。縦割りとか横串とかXY列で表される時代から、指向性・嗜好性・志向性による重力場が紡ぎあげる球体のような形に市場が変わる。toBも働いている人材は球体化し始めているから、toCもtoBも等しく変わる。この時代の難しさは、当の本人ですら志向性・嗜好性・指向性を理解しきれていない点にあって、それは、とあるコンテキストが表出してきたところにブワッと集まり、スッと消える、という流れを繰り返す。

宿の予約→レンタカーもどうです?→美味しいお店もどうです?→お土産もネットで買っときます?というような連携サービスに個人のパーソナルデータがサービスを横断して利用できることは利用者にもメリットがあるよね、などという世界線では無い。

BMSGのno no girlsというオーデション番組で、HANAというグループを応援しはじめる→プロデューサーのちゃんみなも好きになる→社長のSKY-HIも好きになる→身につけているアクセサリーがほしい→AAA時代のDVDがほしいというような、これを箕輪さんはC面と読んでいる市場がそこに出来上がる。ただ、これは本人からすると、知らず知らずについ、買ってしまう、見てしまうという動作であって、本人も自覚がほとんど無い。なので、同じコンテンツ・コンテキストを読み解いてくれる「認知側」の解像度がものを決める。口コミ、レビュー、評価、データなどが、C面を唯一可視化できる要素なのだ。

パーソナルデータの利活用について、已己巳己は今後30年ほどの世界線はある程度見えている。そして、これは1つのビジネス要素というより、全ての経済活動における根幹となると考えているのでこれ以上詳細を晒すことはしないが、パーソナルデータに関わる・関わりたい方々は一度ぜひ、箕輪さんの言うC面時代というのがもう既に到来していることを前提にして、サービスを考えてみてもらいたいな、と思う。

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